
こんにちは。料理人の佳子です。
4月13日に始まった大阪・関西万博も、残すところ1か月半。最終日に向けてカウントダウンが始まっています。このブログで紹介するのも、もうこれで最後となるでしょう。
5月13日に、初めて万博を訪れて以来今までに、私は11回「万博民」となりました。あと2、3回は行くと思います。やっぱり会場から近い土地に住んでいる者のメリットなんですね。
雨の日、風の強い日、暑い日、寒い日、いろいろありましたが、実はゲストを迎える意味や大切さを学んだ日々でした。
ゲートに着くと、持ち物を差し出し、安全を確認してもらいます。
たくさんの人が次々と訪れるため、検査をするスタッフさんも時間に追われ、神経質にならざるをえないのでしょうが、みなさん、的確に働いているばかりか、大雨の日には「寒くありませんか?」と声までかけてくださいます。
「あなただって寒いでしょう?」「いえ、僕はこうして動いているから、寒くありませんよ」。顔認証の機械を通ると、「今日も楽しんできてくださいね」とニコニコ。
今までテーマパークや大きなイベントには何度も行きましたが、こんなに人間くさい、温かいゲートがあっただろうかと思います。
長蛇の列になってスムーズに入れないことやあまりにも暑いことを嘆く人もいますが、1日に十数万人が訪れるゲートですから、多少のいざこざはあります。並んでいる人の方にも、いろいろなわがままな風景は見られました。
人気の高いパビリオンには人が集中するし、予約システムの難しいパビリオンは、なかなかアクセスができません。私はあまりスマホを上手に使いこなせないので、行くのを諦めたパビリオンもあります。
そんな中で一番ステキだったのは、インドネシアのパビリオンでした。
若く陽気でノリノリのスタッフたちが、「予約いらない、すぐ入れるよ」「だけど、暑いね、眠いね、疲れるね」と、軽快なリズムのラップで、並んでいるゲストたちを労い、笑わせ、癒してくれます。やっと中に入れる時間がくると、「さあ、楽しんでね」とハイタッチ。
並んでいた疲れはすっかりなく、むしろうれしくて、ニコニコして館内に向かうことができました。
中にはインドネシアの森林が再現され、バナナの樹があったり、コモドドラゴンの模型が飾ってあったり、だんだん国に吸い込まれていきます。
回廊にはインドネシア人の顔だけうつした写真がそれはモダンに展示され、民族的な武器や織物の展示はまるで民族博物館に来たよう。そして大きなシアターでゆっくりと、インドネシアの宗教儀礼や文化を垣間見ます。
最初の陽気なスタッフの軽さや明るさから、だんだん静かで深くなっていき、懐の深いバックグラウンドまでぐいぐい引っ張られていく、上手なラインナップ。
このパビリオン大好きと思う以上に、この国への興味・関心が引きだされ、インドネシアに行ってみたくなる!
本当に見事な演出でした。
今回の万博では、音楽や映画、ゲーム、VR(バーチャルリアリティ)などの分野でよく用いられる「没入感」(何かに熱中して、その世界に入り込んでいるような感覚。周囲の状況や時間を忘れてしまうほど、ある対象や状況に意識を集中している状態)が盛んに使われていました。
没入感は、ユーザー体験の質を大きく左右し、没入感が高いほど、感動や興奮、満足度が増すとされています。
没入感を高める予算やセンスが高いほど、その場での印象には残りやすいのですが、それが「行ってよかったパビリオン」「そこへ行きたくなるような国」になるかというと、答えは微妙です。
その国に行ってみたいと思える境地に至るとすれば、没入感を高めてくれたシステム設計以上に、そこで働いていた「人の質」や、その国の日常や歴史に対する「興味深さ」なんだろうなあと思ったのです。
インドネシア館やコロンビア館はそんな好例でした。
食堂あおぞらは、料理やドリンクを提供する飲食店ではありますが、行ってよかった、もう一度行ってみたいとお客様に思っていただくには、ここで働く私たちの人間としての質も問われているし、提供している料理やドリンクのバックグラウンドにあるストーリーも大切なんだろうなあ。
大賑わいの万博で文字通り疲労困憊になりながら、私はそう心に刻んできました。